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ISPAヨットスクール体験記
7/28更新

 ISPAという世界的なNPO団体があります。
 これは、カナダのバンクーバーに本部を置くヨットとパワーボートに関する団体で、サーティフィケーションという資格認定を通じて、ヨットとパワーボートの安全な楽しみ方を啓蒙していこうという団体です。
 同様の団体には、古くはイギリスのRYA(ロイヤルヨットアソシエーション)、ASA(アメリカセイリングアソシエーション)などがありますが、ISPAはそれらの団体をスピンアウトした人々によって構成され、科学理論に則った最新の操船方法を啓蒙する、というのが売りの団体となっています。
 私は妻とともに、この団体の日本支部に、2004年7月21日〜26日までの間泊りがけで通い、Competent CrewとSkipper Daysailing のサーティフィケーションを得ました。
 以下は、その体験記です。
 体験当時の日記と、それに対する事後の感想をつける形としています。


2004年6/5 テキスト到着
日記:
 思い切って、夫婦二人でISPA(国際セール&パワーボート協会)のセールボート教室に申し込みました。
 岡田先生から早速送られてきたテキストを読み、愕然。
 今まで読んだどんな出版物よりも判りやすく、そして、知識体系化が進んでいるのです。
 このテキストは、まっとうな大学であれば学習の基礎として教える「良い本とは、勉強の道標がわかる本である」というのを地で行く名著です。
 今の体育会系丸出しのヨット部ではなく、こんなテキストや教え方が世に広まれば、きっと、日本のヨットももっと盛り上がるのでしょう。
 こうした本当にわかる教え方を学ぶと、体育会系が結局、先人が保身のために適度に(自分を超えないように)後進を育成する手段に過ぎないという事を痛感します。
 日本のヨットは20年遅れている、という言葉の意味を痛感しました。
 現状、日本のヨット関連書籍はどれもこれも体育会系の精神論が多分に振りかけてありますが、本来、その世界を職業としてゆくのでなければ、精神論は関係ないはずです。(無論、その道のプロとしてやっていくのであれば、精神論は絶対に必要ですが)
 いつの日にか、舵社を初めとする日本の出版社からも、こういうまともな本が出る日がこなければならない、と感じます。

コメント:
 申し込み直後に届いたテキストは、本当にすばらしいものでした。日記の文面からも、私が大きく期待していることがわかります。
 ただ、この時点で、担当インストラクターであるはずの北村勝彦氏が一切前に出てこないのが気にかかっていました。
 この気がかりをこの時点で投げかけられていれば、後の問題も起きなかったのでしょうけれども・・・



2004年7/21 ISPA初日 基礎部分の講義
2004年7/22 ISPA二日目 実習初日
日記:
 昨日から、ISPAの講習会が始まっています。
 昨日初日は前座として、ドッキング(離着岸)の講習。
 宿泊部屋のクーラーが壊れていて、なかなか大変でした・・・
 本日2日目は、その実践と機走の基礎でした。
 ISPA参加前にもみっちりと基礎をやったはずなのですが、現状では、安全航行のためには程遠いことを実感しました。  ホームポートに帰り次第、いろいろと自分の船のシステムを変えるつもりです。
 ヨットでは右その場周り回頭で舵切りがいらないということも、すばらしい発見でした。
 プロップワークがこれほど効くとは・・・!
 2日目にして、非常にいい勉強をしている実感があります。
 また、本日のまとめとして、機走で仮想的なセーリング(ポイントオブセール)をやりました。
 ホームポートではいくら聞いてもわからなかった風向きが一発でわかるのには、感動です。
 明日以降も、まだまだ楽しめそうです!

コメント :
 ISPAに割り当てられた宿泊場所のクーラーが壊れて蒸し風呂状態の部屋だったため、初日はとてもではないですが、日記が書ける環境ではありませんでした。
  また、ネット環境も最悪で、部屋からの外線電話どころか公衆電話も無く、エアーエッジも不通地域とあって、まったく通信ができなかったことも予想外の事態でした。 (結局、翌日、携帯電話につないで通信に成功しました)

 2日目にようやくクーラーが交換されましたが、部屋も汚く、正直、行く末が不安な状態です。
 文面からは、何とかやる気を出そうとマイナス面を意図的に避けて日記を書いていることがわかります。
 また、せっかくすばらしい教科書があるのに、それを一切使わずに講義が進むのも不安材料でした。
 2日目からは講義に加え、いよいよ実習が始まっています。
 ちなみに、プロップワークの実習では、私も含めたヨット経験者ばかり3人がかりで誰一人として一回転に成功せず、大きく不安を残す教習結果でした。
 アンカリング(錨泊練習)では、不安定な姿勢でのアンカリングを強要し、挙句の果てに航路でアンカリング練習を行っていたために(!)漁船の出港に出くわす羽目になりました。
 ちょうど私が錨を回収するところだったため、錨がかかったままの状態で北村先生自らが操船指示をしてエンジン力で無理やり錨を引っこ抜いて離脱をしたのですが、クリートでは無く私自身がアンカーロープを持った状態だったため、力尽くで私がアンカーロープを支えることとなり、私が肩を痛める羽目となりました(しかも、アンカリング作業はパルピットの上から直立して行っていますので、後進中にうっかりアンカーロープが腕に絡めば、即落水です)。挙句、北村先生からは、私が肩を痛めたのは、先生と私の間に立った妻の連絡が悪いからだ、というお叱りを受けました。
 ポイントオブセールでも、「体で風を感じろ!ウィンデックスは見るな!」と、なにやら体育会系の直感主義風の指導が出始めていましたが、私は風向きを感じるのは得意だったため、特に問題は感じていませんでした。
 しかし、私以外の参加者全員が、風向きがまったくわからずに難儀していましたが、私一人の成功をもって、実習の成功とされてしまいました。
 また、実習初日にして、妻が軽い熱射病で休憩を取らざるを得なくなり、もう一人の生徒の方が停船前に桟橋に飛び降りて船と桟橋との間に挟まれ、右足を大きくすりむいてしまったことも印象的です。(プロペラが回っていましたので、一歩間違えれば大惨事でした・・・)
 実習も上手く行かず、負傷者も続出で、ISPAの標榜する「安全なセーリング」とは、どこかほど遠い感じがしていましたが、「何だかんだ言って結局ヨットって体育会系なんだねえ」などと、生徒同士でのんきに話をしていたものです。
 この時点で北村勝彦氏の実力不足や、岡田豪三先生一人の個人能力に頼りきったISPA-Japanの体制の甘さを見抜けていれば、問題は大きくならなかったのですが・・・

シーボニアにて

ISPAに割り当てられた部屋



2004年7/23 ISPA三日目 セーリング初実習
日記:
 今日は、ついにセーリングでした。
 ・・・が。
 いまいちわかりにくいのです。
 確かに、セールアップまでの流れは大変良くわかりました。生徒3人の力で沖まで出られたのは、まさに感動そのものです!
 ・・・しかし、ベンドオン(セール準備)の手順が不鮮明で疑問点が山積み。
 特に(怖いことに)安全備品周りが良くわかりません。
 問題は、午前中の実技を終え、午後の実技で洋上に出たときに起こりました。
 夕方になり、風が強くなってきて、ヒールがきつくなってきました。
 と、そこで、私の右足の靴が壊れてしまったのです。(ハトメが取れてた・・・プラスチモの高い靴だったのに・・・)
 靴が非常に脱げ易くなってしまったので危険を感じ、ハーネス(安全索)着用を申し出たのですが・・・(セーリング条件下でのハーネス着用を試してみたかったですし)
 なんと驚くべきことに担当の北村先生はしばし悩んでぶつぶつと何かをつぶやいたあと、「それはコスタル(上級)コースでやります」と口走りました。
 正直、あまりのことに驚愕しました。
 ハーネスは、船上での安全確保の基本です。
 そんなことは私のような素人でも知っています。
 それを、別料金の、上級コースでやるから今は教えないというのです。(言うまでもないことですが、事前に配布されたISPAの教科書には、いの一番にハーネスが載っていますし、その着用訓練があることもISPAのパンフレットにきちんと明記されています)
 冗談だろ、と思い再度問い返すと、声を荒げて「コスタルコースでやる」とのこと。
 そうこうしている間にも、風は強まり、船はますますヒールします。
 しかし北村先生は、絶対に持論を変えようとしません。
 残念ですが、ここまでです。
 ・・・さすがに身の危険を感じ、責任者の岡田先生に携帯電話から電話をし、インストラクターの交代をお願いいたしました。
 思えば、昨日のアンカリング実習でも、走錨したアンカーラインを私が力任せに必死に押さえ込んでいたのに、ひたすらマニュアルどおりに後進をかけ続けて、私が人間クリート状態になっていましたし、その前後に習った舫い紐の結び方はめちゃくちゃでしたし(そもそもリーフノットすら教わっていません)、おかしいところは無数にありました。
 ヨット初心者だけにそんなもんかと思っていましたが、冷静に考えてみれば、たかが遊びで安全がないがしろになるのは異常と思えます。
 北村先生はことがあることに「レースではそんなことはしない」と口走っていましたが、私たちはレースがしたいのではなく、クルーズがしたいのです。そしてISPAはクルーズの学校です。レースでのヨッティングなど、こんな高い学費を払わなくとも学ぶことができます。私たちは、体系立ったクルーズテクニックが知りたいのです。  夕刻以降、岡田先生にインストラクターが代わってみると、その、わかりやすいこと!
 そのわかりやすさは、さすが石井師匠に肩を並べるほどです。(・・・というか、教え方が似ています。非常に学びやすいのですが、大変不思議です)
 しかも、常に安全重視です。
 夜遅くまでかかって今までの2日半の間に教わったこともさまざま修正していただき、明日からは気分一新でカリキュラムに挑みます!

コメント:
 3日目にして、ついに問題が表面化します。
 各々抱いていた不安が徐々に大きくなり、お昼休みの段階で、生徒の間に疑問が出始めます。
 実は北村先生は昔の事故のために隻腕で、前日までのロープワークなどの教習がいまいち伝わらないのもそのためではないかと思っていたのです。
 しかし、いよいよセーリングが始まるにつれ、船のロープのおき場所もわからずに岡田先生に電話をする始末で、手の有る無しに関係の無い出港準備やセーリングの知識そのものに疑問が出始めたのです。
 挙句、ポイントオブセールでは、相変わらず「ウィンデックス(風見)を見るな!」の一点張り。操船指示の言葉まで言い間違えて、軽度のアクシデンタルジャイブを起こさせる始末です。
 操船姿勢についても指導を受けましたが、コックピットの中のどうにもおかしな位置を指示します。ヒールした船内で、コックピットにいるのはなかなか大変です。
 クルーワークにいたっては風下側に常にいるように指示され、クローズホールドでは海面が迫り、かなりの恐怖を感じます。
 そんな状態で、昼休みを終え、午後の実習中に私の靴が壊れたのです。(度重なる無理な動きのためと思われます)
 私はもちろん靴の故障を申告し、その後、クルーワークで海水間近な風下側担当だったため、ハーネスの着用を質問したのです。

私「ハーネスは風上側につけると教科書に書いてありましたが、タッキング(カミングアバウトという方向転換を繰り返す操船)の時にはどっちにつければ良いのですか?付け替えのタイミングは?」
北村「・・・(しばし黙って)・・・その内容はコスタルコース(上級コース)でやりますので、ここでは教えません」
私「!!??ちょ、ちょっと待ってください、教科書やパンフレットには、ハーネス着用方法について書いてありますよ!?」
北村「だからハーネスについては海況に関してコスタルコースでやる内容なんです!知りたかったら別料金を払ってください!!」
 その怒鳴り声が響き渡った瞬間、船の空気が凍りつきました。

 もしも私たちがヨットをまったく知らなければ、ひょっとしたらその言葉を信じてしまったかもしれません。
 しかし、私がお会いしたヨットの達人は、全員が全員口をそろえて言います。「ライフジャケットなんて気休めだ。大事なのは海に落ちないこと、つまりハーネスの着用だ」、と。(笑ってしまう話ですが、ISPAのテキストにもそうしたことが書かれています)
 そんな命を守るための基本中の基本、ライジャケよりも重要なものを上級コースでやる?
 まともな神経をしているヨット指導団体であればそんなわけ無いですし、もし仮にそうだとしても、そんな馬鹿なカリキュラムを組んでおいて安全を標榜するISPAなんて、存在するだけ害悪である、と断言できます。
 そんな馬鹿な屁理屈を平然と述べ立てた上、堂々と数十万円の別料金を請求するその態度!
 しかも、 実際に海面はすぐそばに迫り、私の靴は壊れているのです!人命を軽視してでも自らの理屈に固執する、
これが果たして、人にものを教える人間の態度でしょうか!?

 この時点で、強まりつつある午後の風の中、かなりの沖にいましたので、とにかく船を陸につけさせ、その間に責任者の岡田先生に電話をしました。
 さすがに限界です。
 ヨットは、自己修練の場も兼ねるとはいえ、所詮は遊びです。
 その遊びで、しかも、スクールに来ている最中に、命を落としたくはありません。

 しかし、岡田先生に代わったことで、不安も生まれます。
 どうにも、両先生の様子がおかしいのです。
 岡田先生は私たちが習った内容についてしきりに確認をしますし、北村先生は何かと間に入って話題を別な方向へと向け、私たちに直接答えさせようとしません。
 しかも、岡田先生は積極的にISPAの教科書を使います。北村先生は、一回も教科書を開かなかったというのに、です。
 ・・・この時点で、嫌な予感がしていました。

北村先生の船、ペガサス。右下の人物は無関係です


2004年7/24 ISPA四日目 セーリング基礎のやり直しと、別れ
日記:
 実技もいよいよ本番、と言いたいところなのですが、、、
 残念ながら、事実上、今日が初日という感じになってしまいました。
 いや、初日よりも後戻りしてしまったと言っても良いでしょう。
 午前中、岡田豪三先生下での初実習だったのですが、まずそこで岡田先生の怒声が連続。
 それに対し、我々生徒側の怒りも爆発!

「習っていないことを怒鳴られても困る!」

 問題は、この一点でした。

 つまりはこういうことです。
 あまりの安全に対する無自覚にインストラクターを岡田先生に引き継ぐ事になった北村勝彦先生でしたが、要は、他の事もまともに教えられていなかったのです。
 クローズホールド(風を上る帆走方法)で教えられた姿勢ひとつすらまともではなく、それどころか、ドッキング(入出港)のカリキュラムまでが実にいい加減なものだったのです。
 そんな状態で我々がまともにセーリングできる訳がありません。
 しかし、北村先生は3日目までのカリキュラムをちゃんと教えたと主張していたため、引き継いだ岡田先生は、セーリングの失敗を我々生徒側の問題として認識し、怒鳴り声を上げたのです。
 実のところ、私たち生徒側もまともなことを習っていたと思っていたため、次々投げかけられる意味不明な怒声に、当初はただただ戸惑うばかりでしたが、なぜ習ったことができないんだと言っている事を認識したため、この問題点に気がついた次第です。
 そこからが、大変でした。
 とりあえず陸に戻り、要点をまとめてみると、初日に習ったことからすべてに渡って、どうにも怪しいのです。
 岡田先生が改めてそのあたりを教えようにも、前日新しく習ったばかりのところに別の似たような(しかし決定に違う)ことを習うわけですから、私たちの頭は混乱に混乱を極めています。
 たとえば、操船での転舵の目安ひとつをとっても、今までの北村先生は「肌で風を感じろ。絶対にウィンデックス(風見)は見るな」と言っていたのですが、正しいISPAのやり方では、ウィンデックスに従って操船をする事になっているのです。(帆走する船の上で素人が風を肌で感じるのは不可能に近いため、当たり前といえば当たり前の話なんですが・・・)
 そうは言っても、身に付けたばかりの知識や経験を、そうそう変えられるものでもありません。
 本日の午後から他の生徒さんは「頭が混乱して、継続は無理」と、カリキュラムを中途で辞め、現在は私たち夫婦だけが残って、新たに講習を受けなおしている状態です。
 現状、残る日程も少なく、この期間でこの混乱を脱するのは困難そうなため、本当は私たちも辞めようかと思ったのですが、、、
 しかし、私たち共働きの夫婦に、これだけ長い休みが近いうちに取れるとはとても思えないのです。
 大いに悩んでいますが。。。とりあえず、まだ、シーボニアにいます。

コメント:
 嫌な予感が的中です。
 とにかく、思い出したくない一日です。
 仕事に無理を利かせて岡田先生が代わってくださったのですが、とにかく初っ端から罵声、罵声でした。
 岡田先生は普段は温厚な方なのですが、危険行為に関しては強く叱責するのです。
 そして私たちは北村先生に危険行為ばかりを叩き込まれていたのです。ですので、罵声の連続になってしまうのは無理もありません。
  ・・・そのように
、理屈では思うのです。
  ですが、せっかく前日までに習ったことを完璧にこなしているのに、その責任者にそのことを怒鳴られるのでは、理屈ではともかく、感情的には納得できるものではありません。
 さすがに嫌気が差し、ほかの方は「頭が混乱して耐えられない」と、辞められてしまいました。
 結局私たち夫婦だけで残ることにしましたが、北村先生につけられてしまった変な癖は抜けそうにありません。
 特に、コックピット内での立ち位置に付いては、完全に身についてしまっています。 しかしコックピット内のティラーのすぐ横という立ち位置では、満足に舵を切ることもできず、クローズホールドで安定して走れません。
 ISPAのやり方は最低限の項目で安全を第一に操船することを重視しているだけに、そこから外れてしまうとただの手抜きばかりの酷く危険な行為となってしまうのです。プライドの高い北村先生はISPAのやり方通りに操船をすることを良しとせず、なるべくISPAの教科書通りにはしないように自己流を作り上げていたようですが、それが完全にあだとなってしまった形です。
 ここから、せっかく覚えたことを一から覚えなおす、私たちの悪戦苦闘が始まります。


 *この日はひどく落ち込んでいたため写真はありません。

 


2004年7/25 ISPA五日目 リーフ作業
日記:
 今日はリーフ(縮帆)の仕方を学ぶ一日でした。
 ただ、いままでとは様子が違います。
 今日は日曜日とあって、岡田先生に加え、お二人のISPAインストラクターの方が付いて指導にあってくれるのです!
 さらに、上級コースを受講していた先輩も一人、参加してくれます。
 これはなんとも贅沢な話です。
 まず、午前中、停船した船の上でのリーフ作業。
 こちらは問題なくできました。
 そして問題は午後。
 なんと、風速12m!
 沖には目立つ白波が立っています。
 デイセーラーなら絶対に出航しない天候です!!って言うか、日曜だというのに出ている船が、ほとんど無い状態です。
 この風の中、素人二人で作業をして、何とか出航して戻ってこようというのです。
 いきなり本番も本番、超本番です!!!
 まず、普通に出航し、ワンポイントリーフでセールアップ。
 この時点では三崎のブランケットに入っていて風も波もなかったため、まあ、これは問題なくできます。

 そして、いよいよ海に!!

 風、風、風!!!
 波、波、波!!!

 ワンポン(1ポイント目の縮帆)が入っているというのに、どんなにがんばっても、ウェザーヘルム(風上側)で舵が持っていかれてしまいます!
 そして、片舷のレールが波を洗う、20度を軽く越えるヒールの中、いよいよ2ポイントリーフ作業の開始です!
 ISPAの正しい教え方では、最終的に夫婦2人で30ftの船を操船する事を目指すため、一人がティラー、一人が縮帆作業という役割になります。
 先生方は3人いても見ているだけ、なのです!!
 まずは私がティラーを握り、クローズホールドで帆走する中、妻が縮帆を行います。
 正直言って、怖い!!!
 操船自体は多少難度が高いという程度なのですが、デッキ上の一番不安定なところに縮帆のために人が動いている状態で操船するというのは、大変緊張が走ります。
 操船を間違えてアクシデンタル(ワイルド)ジャイブでもすれば、妻を振り落とすことは確実です。(ハーネスをつけてはいますが、デッキに叩きつけられて、怪我は免れないでしょう)
 強い風の時にはクローズホールドよりもわずかに風上気味にしてヒールを殺しますが、コンパスを見れば傾斜は25度を超えています。(妻の分の体重が元居た舷から移動するため、ヒールが強くなるのです)
 しかも、大波が来るたびに船は軽々と方向を変えられ、瞬間的に舵を取らねばなりません。
 しかし、妻もがんばります。
 私の下手な操船にめげず、ブームに半ばぶら下がるようにしがみつきながら、着実に仕事をこなしてゆきます。
 そうこうしているうちに、妻は無事作業を終え、コックピットに戻ってきました。おみごと!
 何とかかんとか、妻が縮帆作業を終えたため、もう一度妻がマストまであちらこちらとぶら下がってゆき、1ポイントリーフに戻してから、私の作業の番です!!
 そして私の作業中ティラーを握るのは、まさか妻・・・!?
 ウチの妻は自慢じゃありませんが、私よりも操船が下手です。妻の得意技はタック(風上への方向変換)での逆回転と、なんでもないシーンでのアクシデンタル(ワイルド)ジャイブ。
 リーフ作業成功の喜びもどこへ行ったか、引きつった顔の妻を見ているうち、保険金かけてたっけな、会社のみんなに悪いな、せめて漫画の話は完結させたかったな、などというやくたいもない思いが、走馬灯のように脳裏を走ります。
 ・・・と、先生がおっしゃいました。

「あ〜〜〜〜。(しばしの間)ヘルム(操船)、Sさん(先輩の名)。奥さんはポートに座って休んでいてください」

 ・・・命拾いをしました。。。
 その後、私はといえば、縮帆作業中に船酔いしてしまい、はいずるようにして何とか作業を終え、帰港しました。
 いやはや、元気いっぱいの妻と比べ、なんとも情けない・・・
 あまりの情けない様子に、縮帆作業のラスト近くでへばっているときに岡田先生がおっしゃっていました。 「・・・奥さん、ちょっとヘルム(操船)やってみますか?」
 ・・・いや、瞬間で船酔いがさめましたよ。
 自分でも信じられない速度で縮帆の残り作業を終え、妻が舵を握ると同時に、風上のデッキにしがみつくようにして帰還することができました。。。
 そんな私を見て、先生はニヤリ。
 ・・・人間、死ぬと思えば何でもできるもんですね。

 本日は、以上のような感じです。
 正直言って昨日まではISPAに来たことを後悔していました。
 高い学費の割に、あまりに講義クオリティが低いとがっかりしていたのです。
 しかし、今日一日の講義で、その思いは払拭されました。
 妻や私が無事に縮帆ができたのも、それぞれにISPAの先生が一人づつそばに付いていろいろとアドバイスをして下さったからです。
 しかし、先生方は、縮帆作業そのものについてはアドバイスはくれません!
 あくまでも、それまでの講義で得た自分たちの知識と、技術で、作業を終了させるのです。
 先生方は、足の置き方や体の起こし方、安全な移動方法など、あくまでも安全面に関してのみ適時アドバイスをくれます。(作業にばかり口をはさんで安全面がおろそかだった、3日目までの北村先生とは正反対ですね。)
 そのおかげで、今日は私たち二人の操船とクルー作業で、12mの風の中出航し、陸地が見えないところまで(往復10マイル以上)走り、そして縮帆を終え、帰って来ることができました。
 自分の力で動かすヨットがこんなにも楽しいものだとは、思いもよりませんでした。
 この授業のできるISPAの仕組みは、実にすばらしいものです。
 今日一日で、今までの分を取り戻せたような気がします。
 ちなみに明日は本来仕上げクルーズの予定でしたが予定を変更し、北村先生がデタラメを教えた部分の最終修正の予定です。
 現状私たち二人は、リーフや帆走一通りはできても、安全姿勢も取れなければロープもまともに結べない、アンカリングもできないゆがんだ状態なので、その是正となります。
 正直、無責任なインストラクターのせいで本来のカリキュラムがこなせず、仕上げクルーズができないのは大変悔しいのですが・・・
 しかし、今日、最高の思いを経験できたので、良しとしましょう。

コメント:
 この日は、理想の日でした。
 こまごまとした覚え直しこそあれ、まるでISPAのパンフレットに書いてあるような一日で、最良の日でした。
 ただ、このあたりから、ヨット操船に不安がよぎり始めます。
 自分たちの習ったことのどこまでが安全で、どこからが北村流の危険行為なのでしょうか?
 すでにこうした技術を叩き込まれてしまった私たちにはその境目が見えないため、とても不安なのです。

この日のISPAの先生方。大変お世話になりました


2004年7/26 ISPA最終日 基礎のやり直し
日記:
 本来ならば仕上げクルーズの日ですが。。。
 残念ながら、北村勝彦先生のいい加減講義の後始末で、午前中はアンカリングとセーリングでのMOB(*マンオーバーボード、つまり落水者救助のこと)のやり直し、午後からは教科書を追いかけながら、抜けや認識の間違いが無いかの総点検となりました。
 不幸中の幸いで、私たち夫婦は自前で船を持っていますので、仕上げクルーズが無くとも我慢はできますが、もし、これがヨットを持っていない方だったら、とても辛いことになっていたでしょう。
 まず、アンカリングですが、北村先生流の作業の危険さを思い知りました。
 北村流では、ロープをバウプルピット(北村流に言うところのバウプッシュピット)から回して、ライフラインの上から立って(直立し、上半身を海に乗り出して)アンカー投入をしていました。アンカーを船に当てないため、との事でした。
 が、これはアンカーを効かせるために後進をかけ、ロープにテンションがかかると、海に引き込まれそうになり大変危険なのです。
 正しいアンカリングは、片膝を付き、バウプルピットの下からアンカーを投入します。
 このやり方だと姿勢が安定して安全な上、バウプルピット上からアンカーを落とすのと違い、船の舷側を通過する際にはまだロープが短いため、アンカーを船に当ててしまうこともありません。
 2日目に北村流アンカリングをした際、さすがにおかしいと思い疑問を投げかけたのですが、半ば怒鳴る感じで拒否されたため、黙ってしまったのですが・・・
 いや、つくづくひどい講義を受けたものです。
 その後、アンダーセールでのMOB救助練習をしましたが・・・
 可哀想に妻は北村流が抜けきれず、立ち位置ひとつについてもパニックを起こしていました。。。
 かく言う私も、「絶対にティラーエクステンションを使うな」という北村流の影響で、クローズホールドの際に不安定な姿勢をとってティラー本体を握る癖が付いてしまっていて、安定したカミングアバウト(いわゆるタック)ができません。
 本来のISPAの教え方では、クロースホールドの時には、体を安定させるためにティラーエクステンションを握り、コックピットを出て、風上側ライフラインに背中を預ける形となるはずなのです。
 ヨット経験者二人が、最終日にして基本的な回頭ひとつ満足にできない状態に、岡田先生の悲しげな表情が印象的でした・・・

コメント:
 仕上げクルーズは、初の港から港への移動ということで、楽しみにしていたのですが・・・
 アンカリングやMOBなどの基本について疑問が山積みでしたので、とてもそれどころではありませんでした。
 しかも、最終日のここに至って、北村流に叩き込まれたコックピットでのクローズホールド姿勢の悪さが裏目に出ます。
 まだまだ体に染み付いたままの北村流にコックピット内に一度腰掛けてしまい、その後で慌ててISPA式にティラーエクステンションを握ってコックピット脇に座りなおすという二度手間の動きになってしまうため、MOBでの舵操作に体の移動が追いつかないのです。
 スムーズな操船が求められる状況でそんな姿勢や手間をかけているのは大変危険なため、もちろん岡田先生の怒声が飛びます。
 ・・・正直、最終日にしてまともにタッキングもできない状態と言っていいでしょう。
 こうした変な癖がついた状態を恐れたため、ヨットスクールに申し込んでからは、マリーナでもなるべく帆走関連の練習はしないようにしていたのですが・・・まさか、スクールそのものでこんな変な癖がついてしまうとは。。。
 ・・・私は余りそうした感情は持ったことが無いのですが、悔しいとは、こういう気持ちを言うのでしょうか。

教習艇シグナスのコックピット


2004年7/27 ヨットスクールが終わって
日記:
 東京に帰り、今日はいよいよホームポートでの帆走練習!
 ・・・だったはずなのですが、妻が帆走を怖がってしまい、結局桟橋でセイルアップをし、備品をチェックして終わりました。
 正直、今現在、私自身も帆走に嫌悪感が無いかといえば嘘になります。
 やはり、2つの似たような(しかし実は安全性のまったく異なる)ことを連続して教えられるというのは、大変な混乱を招きます。その混乱した頭で帆走に望むのは、正直言って苦痛です。
 モーターボートにしておけば良かったかな、などという考えも頭をよぎります。

 ためしに、桟橋でセイルアップをしてみたわけですが、やはり上手く一発ではあがりません。
 ISPAのやり方に北村流がところどころに混じり、スムーズな作業の流れを邪魔するのです。

 台風が接近しているため、増し舫いをして、マリーナを後にしました。
 ・・・ため息が出ます。

コメント:
 自分の失敗を他人のせいにするのも、過去を振り返って嘆くのも、共に私の主義ではありません。
 何しろ私が社長を勤める会社の社是は、「反省すれども後悔せず」なのです。
 そんな能天気な私ですが、それでもため息が出てしまいます。
 スクールに行く前はあれほど大好きだったヨットが、ちょっと嫌いになっているのです。

 今日は台風前の最後の晴れ、しかも微風でまだ波も高くないとあって、絶好のセーリング日よりでした。
 しかし、、、
 出航届けまで出したのに、妻は怖がって、出航を拒否しました。
 私も正直、自分で帆走できるのか、帆走中に危険な行為をしてしまわないのか、自分自身の技術が不安でなりません。

 妻は気弱になり、「ヨット売ってモーターボートにしようか」などと口走っています。
 私はそこまでは思いませんが、それでも、ヨットスクールに行ったことが正解だったかどうかについては、大いに疑問を持っています。
 理屈では、この後で反復練習をして、付いてしまった変な癖を取ればよいだけだ、というのはわかっています。
 しかし、スクール直後のこの状態では、その気力が起きないのです。


総論:
 ISPAに行くべきか否か?

 最後に、個人的なコメントを述べます。
 ヨットスクールでの講習を終えた今、もし、仮に、ヨット初心者にヨットスクールに行くべきかどうかと相談されたら、私は迷わずに「行くべきだ」と答えます。
 ヨットスクールで学べることは非常に大きく、そうした体系化された知識は、自分の船で試行錯誤で乗り回したり、先輩方の船に乗せてもらうよりも早く確実に体得することができるからです。
 しかし、ISPAが良いか、と聞かれると、答えに迷います。
 確かに、そのカリキュラムは先進で、どんな出版物よりも優れたものです。(私は舵社から発売されている出版物をほぼ読破しましたが、ISPAの教科書にわずかなりとも比類するものは存在していません)
 ISPAのサーティフィケーション(資格)も、ISPAの言う事を信じるのであれば、世界中で通用する立派なものです。
 今回の受講前に、夫婦でさまざまなスクールを比較して入学を決めましたので、ISPAの講習をおえた今でもこれ以上のヨットスクールは無いと思っています。

 ですが、その理想と現実が大きく食い違っているのもISPAなのだとも感じています。
 今回問題になった北村勝彦先生は、2年ほど前にISPAの正規のインストラクター資格を取った人間です。つまり、彼が教えたことは、岡田豪三先生同様、ISPAのやり方そのものに則っているはずなのです。
 しかし、それがこんなおかしなことになってしまっているのは、ISPAが私たち生徒が払う学費のほかに、彼らインストラクターが支払う年会費で運営されている団体であり、そのため、一度資格を取ると無試験でインストラクター免許の維持ができるという点に問題があると感じています。
 いくらNPOとはいえ、定期的に会費を払ってくれる理想的なスポンサーに強く意見できる団体があるとは信じられません。そんな状態でインストラクターの技量が一定水準に統一されていると信じるのは、理想論に過ぎます。
 確かに、岡田先生の教え方はきわめて安全で、ISPAの教科書どおりのすばらしいものだということができると思います。ですが、それはあくまでも岡田先生に習った場合のことであって、ほかのインストラクターの方に習った場合には、決してそうであるとは限らない、それどころか、教科書や正規のカリキュラムを使わないことすらあるのがISPAなのだということです。

 とはいえ、ISPAのカリキュラムは科学的であり、現時点で最高のもののひとつです。
 ですので、ある程度のヨット経験者で、インストラクターの怒声にも負けずに自分の正しいと思った道を突き進める人であれば、どんなインストラクターが付いたとしても良い経験が得られることでしょう。
 ですが、まったくの初心者で、何が正しいのかも良くわからない場合には、余りお勧めできるとは言いかねます。
 私たち夫婦の今回の失敗を振り返ると、初日でISPAのそうした体質を見抜けなかったことに問題があると考えています。スポンジが水を吸うように与えられたものを吸収するのではなく、あくまでもすべてを疑い、初日で北村先生と岡田先生に意見を言うことができていれば、ここまでの状態にはならなかったのでは、と考えるのです。

 ISPAに行くことを検討している場合には、こうしたことを考慮した上で検討を行うことをお勧めします。