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刀、一振りの歴史(その1)

 先日見学に行った居合道場の関係でご縁があって、刀を一振りお預かり(購入)することになりました。
 もちろん、赤貧洗うがごとし、アニメ業界所属の私に出せる小遣いの範囲でしたので、超破格のお安さでした。
 居合向け実用刀ですので、いわゆる安ガタナですね(^^;


 で。購入したのは、かの、津田越前守助廣!
 ゲームなどでもお馴染みの最上大業物「そぼろ助広」の息子で、大業物の認定を受けている、かの助広の銘が入っています!
 ……ただし、直刃、擦り上げ(抜き打ちしやすい刀にするために短く加工してある)、銘切れ(擦り上げのせいで銘が途中で切れている)、しかも、銘ダメ(偽銘)、という売り込み文句がカタログに踊っておりました(笑)
 ……皆さんに期待させておいてなんですが、要するにかろうじて登録美術品というだけのまがい物。無銘刀以下の存在。いわゆる「安ガタナ」の定番文句そろい踏みの安物です。
 まあ、どうせ居合で藁束相手に振り回して刃欠けさせちゃう実用刀なので、自分的には転売価値無しの安物でも全然OKなのですが(^^;


 この刀を選んだ基準は、まず長さ。この日記を読んでいる方ならご存じの人も多いと思いますが、私は日本人にしては体格が良く、肩が張っていて腕が長いので、普通の長さの刀だと短すぎて格好が付かないのです。
 しかし、この刀は、2尺5寸3分と、なかなかの長寸。私が右手で下げて、切っ先が床から1寸ほど浮く、まるで私のためにあしらえたかのようなバランスでした。
 しかも、この長さにしては抜き身で1キログラムと、えらく軽いのです。反りも弱く、いわゆる「物干し竿」と呼ばれる類の刀です。
 実際、定寸(2尺4寸)の新々刀「寿命」と比較して、これだけの長さの差があります。

 ちなみにこの上段に置いた「寿命」も、無銘ながら見事な実戦的直刀で、なかなかの御刀でしたが、残念ながら私の体格には合わないモノでした。
 また、これだけ長い刀であれば、軍刀仕立てにしていたとは考えにくく、二次大戦で使われた可能性が低いのも良いところです。


 長さに次いで、重視したのが妻の目。お嬢様育ちの妻のモノを見る目は確かで、妻がこれは良いと言った骨董ものなどは、大体良いものなのです。(当然、買えませんが(^^;)
 私もデザイナーの端くれなので審美眼には少々自信がありますが、美醜ではない気品の上下ばかりは、少年時代に虫や魚ばかり追い回していた粗野な育ちの野生児にはなかなかに身に付かないモノでしょう。
 ちなみにこの刀は、地鉄の木目模様も美しく杢目肌で棟寄りに柾目肌が現れ、刃も直刃ながら刃中の映しは自在に乱れ、匂いは少なめながらも整い、なかなかの気品と美しさ。



 そしてもちろん、決め手は値段。
 いやー、本当に安かったんですよ(^^;
 いくら偽銘擦り上げの新刀とはいえ、400年以上の時代を超えてきた真剣とは思えない、驚きの値段でした。
 なんでも、色々と事情があって1年半以上売れ残っていて、この値段になったとか。
 財産価値はゼロですが、どうせ居合で使い潰すつもりなので、問題なし、です。


 それと、ちょっとした縁が気になりました。
 実は、私はこの時、半ば冷やかしのつもりで店に入ったのです。有名な道場をやっていらっしゃるお店だけに、好奇心の方が勝っていたというのは本当のところなのです。
 しかし、店に入って真っ先に出てきたこの刀を握った瞬間に、店番のおばさんがウン、とうなずくほど私に合ってしまった次第。
 その後、様々な名刀の数々も触らせていただきましたが、モノの出来はともかく、この刀よりも私に似合う刀は見つからなかったのです。
 しかも、この刀、なぜか1年半以上も売れ残り、その間ほとんど誰も触れなかったということ。言われてみれば、確かに、切羽(鍔を押さえる銅板)も曲がり、鯉口は堅く締まり……さすがに最低限のメンテはされて塗られた油こそ切れてはいなかったものの、数ヶ月の間客に触られた気配がありませんでした。道場の門下生が入り浸り、常に優れた獲物を狙っているこの店ではなかなか珍しい刀だったのです。
 この刀。たまたまカタログの写真写りが悪く、地肌の美しさが一切出ていなかったのがその原因のようですが、なぜかそれをド素人の私が真っ先に引き当てたのも、何かの縁というモノでしょう。
 しかも、私の体格にあしらえたかのようにぴったり。
 この刀に比べれば、他の刀はどんな高価なモノを握らせて貰っても、まるでただの鉄の棒か、あるいは逆にただの凶器であるかのように、自分に合いませんでした。
 言うまでもありませんが、刀剣は、人の命を司り、そして人間よりもはるかに長命な、限りなく神に近い存在です。時代の古今、洋の東西を問わず、刀剣の神性が称えられてきています。
 そして、これも洋の東西を超えて言われることですが、「剣が持ち主を選ぶ」のです。
 ただの偶然とは思えない出会いに、選ばれたのかな、と思ってしまったのです。


 元々居合向きの拵えは付いておりましたので、この刀に自分の好みで鞘袋と紐の色を合わせ、鯉口と切羽を直していただき、いよいよ私の手元へやってくることになりました。
 銘だけのものとはいえ助廣です。
 作風も、見事に若い頃の津田助廣とそぼろ助廣との中間を再現したような仕上がりで、素人の私としてはなかなかのものに見えます。
 安物でも、まあ、本人が良いんだから良いじゃない(笑)

 そして、受け取りに行った時のこと。
 銃刀法登録の切り替えなどの全ての手続きが終わったあとで、店主の先生(居合の先生なのです)は、にやりと笑ってこんな事を仰ったのです。
先生「いやあ、(全部手続きが)終わったから言いますけど、実はこの刀、私は四分六で正真(本物)だと思ってるんですよ」
 へえ、ってことはこれはかなりの確率で津田助廣……って、えええええ!!!???
先生「ほら、買う前に本物だと思うよって言われて実は偽物だとガッカリするけど、偽物だと言われて本物だと嬉しいでしょ?」
 先生の、この、誠意ある優れた商売人の鑑のようなお言葉に、私は胸を打たれました。さすが流派の宗主と呼ばれる方は違います。
 でも、と、いうことはこれ、助廣の本物って可能性があるって事!!!!????
先生「実は私、これを本物として買ってきましてね(苦笑)。銘もまた、実に良くできているんですよ。で、喜び勇んで××に鑑定に出したところ、偽銘であるとしか現状では鑑定できない、って帰って来ちゃったんですよ」
 ……あらら。じゃあやっぱり偽物なんでしょうか?
先生「ええ、今のところはそう鑑定されています。ですからもちろん、価格的にはこんな感じ(激安)でして、(買い取りも、もっと)安くなるとは思います」
 ハハハ、やっぱり安物は安物なんですね。下手に高価なモノを持ったらどうしようと思っていたので安心しました。
先生「まあそうですね(笑) しかしながら、この刀の由来には少々事情がありまして、実はこの助廣という人は……」


 ……と、先生が話されたお話と、自分で調べた資料を付き合わせると、ちょっと面白い刀剣の歴史の裏側がわかってきました。
 安刀にも歴史あり。
 そして、この日記は明日掲載予定の「その2」に続く!
2008-06-19_03:33-teduka::General

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