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名刀正宗

 優れた日本刀、と言うと、「正宗」という名が思いつくと思います。
 しかしこの正宗、なんとも怪しい存在で、正宗が居たとされる当時にはほとんど名が知られて居らず、安土桃山時代に秀吉とそのお抱え鑑定士である本阿弥家の推奨によって、急に有名になる刀匠なのです。
 しかも、作風も名の書き方もバラバラのものが、いずれも正真物として現代に伝わっています。
 これは、一説に依れば、豊臣秀吉と本阿弥家が結託して、戦国も終わり、足りなくなった所領の代わりに配布する為の方便として、優れた無銘刀に付けた名ではないかとも言われています。
 実際、この問題は何度も表に出てきており、一度など、明治期に宮内庁の御刀担当者が上記のことを主張して「正宗抹殺論」として大騒ぎになったこともありました。
 この「正宗抹殺論」を否定したとされる、正宗の幼名が出て来たという古文書も、実は明らかに江戸時代風の名前で家系に名が上がって居るなど怪しいところが多々あり、未だにこの疑惑は晴れていません。
(この辺は、名刀剣商刀剣杉田さんの解説に詳しい)


 ……しかし、というか、ですね。
 中国語を少しでも囓れば、そうかもなあとわかるんですよね(^^;
 実は、「正宗」とは、中国語で「本物」とか「正当の」という意味なんです。
 で、秀吉は朝鮮出兵から中国進出を行った中国通で、本阿弥もその際に文化財の接収などを手助けしたと言われています。
 もちろん二者とも、漢文(要するに当時の中国語)をすらすらと読み書きできる教養人であったことは言うまでもありません。その二者が「正宗」の意味をわからないはずもないわけで。
 そしてご存じの通り、秀吉の性格は多分に諧謔的であったとされています。
 武張って教養溢れた振りをしている名家の面々を相手に、下級武士出身でかつては無教養だった自分が、中国語で「本物」という名の偽刀を領地代わりに押しつけて回っていたと考えると、なんとも彼らしいのではないかと思えるのです。


 もっとも、秀吉が押しつけたとされる「正宗」の数々は、作風はあまりに異なるとはいえ、どれも極めて上出来の刀ですから、この辺の抜かりのなさ、一種のサービス精神も彼らしいな、と思えます。
 いずれにしても、現代に伝わる「正宗」の数々が名刀揃いであるのは間違いありません。
 いつかは、一度くらいは自らの手に持って、じっくりと眺めてみる機会を得たいものです。
2009-11-25_03:10-teduka::iai

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